マイクとイヤホン
ミックスボイスを含め、ボイトレをする上で欠かせないのがマイクとイヤホン。まずは自分の声質と声の高さをしっかりと把握することが重要です。
思いのほか、自分の声を正確に認識できている人というのはそれほど多くありません。録音した自分の声を聴いて、自分が思っていたものと違って変な声だと感じたことはありませんか。
これは、普段認識している自分の声が、空気の振動の他に自分の頭蓋骨や筋肉を伝わって聞こえているためだと言われています。つまり、自分が聞こえているあなたの声と周りの人が聞いているあなたの声には少なからずズレが生じているわけです。このズレを無視したままでは、どんなに懸命にトレーニングを積んだところで結局は独りよがりに終わってしまいます。
そうしたズレを解消するためにマイクとイヤホンを使用します。自分の発した声をイヤホンで直接聞くことで、周りの人が聞いているありのままの自分の声を客観的に確認しながらトレーニングできます。
では、どのようなものを選べばよいのでしょうか。私が使用しているマイクとイヤホンをいくつかご紹介しましょう。
マイク
<SHURE sm58>
ダイナミックマイクとしては定番中の定番。もはや説明の必要もないくらいに有名なマイク。いわゆる「ゴッパー」です。丈夫で価格も安いため、さまざまなイベントやライブハウスで使用されています。
高音に強く、クセが少ないのが特長です。ありのままに近い音を拾ってくれるので、初心者のボイトレに最適と言っていいでしょう。ただ、フカレには弱いので息づかいに注意するかポップガード等を使用する必要があります。安いとは言え実勢価格では一万円近くしますので初心者にはやや厳しいかもしれませんが、予算に余裕があるなら早いうちから手に入れておいたほうがいいオススメのマイクです。
<SENNHEISER e835>
宅録では定番のダイナミックマイク。低音をいい感じにマイルドにしてくれるので、男性がしっとり系のバラードを唄うときにその真価を発揮します。また、フカレに強いのでナレーション録りなど歌以外の用途にも使えます。もともとの価格帯はSHURE sm58と同じくらいでしたがSHURE sm58の人気が異様に高くなりすぎたため、実勢価格ではこちらのほうがやや安めです。低音ボイスに自信がある人にはこのマイクをオススメします。もし、マイクを歌唱用と兼用ではなく、ボイトレ専用として使用したいならSHURE sm58のほうをオススメします。ちなみに、私はこのSENNHEISER e835とSHURE sm58をシチュエーションごとに使い分けます。
<audio-technica AT-X11>
価格が2000円程度でケーブルも付属しているので、たいへんお買い得なダイナミックマイクです。値段の割にはクセがなくいいマイクと言えなくもないですが、マイク本体が軽く、手で持つときに生じるハンドリングノイズが酷いのでマイクスタンドは不可欠です。手持ちで使用するつもりなら決してオススメできませんが、「どうしても低予算ですませたい入門者用マイク」としてマイクスタンド込みで使用するのであれば悪くはないと思います。
<SONY ECM-PCV80U>
PCのマイクジャックに直接挿すだけで使用できるお手軽なコンデンサマイク。USBアダプターも付属しています。スカイプなどのトークで使用するには申し分ありませんが、全体的にかなりこもった感じがします。値段相応と言ってしまえば確かにそのとおりですが、正直、歌を唄うのには向いていないと思います。予算の都合でオーディオインターフェースまでは揃えられないけれど、どうしても今すぐにマイクが欲しいというなら…という程度でしかオススメできません。Amazonではとてもよく売れていますが、もしボイトレ用のマイクとして購入を考えているならやめておいたほうがいいでしょう。
<audio-technica AT2035>
初心者が宅録で使用するマイクとしてはやや高価なコンデンサマイク。ボイトレはもとより、ギターやピアノなどの楽器の弾き語りならこれ一本あれば十分と言っていいでしょう。どの音域も偏りが少なくとてもクリアに拾ってくれます。私も弾き語りのときは、このマイクをメインで使用することが多いです。ただ、エアコンや家族の階段の昇り降り、屋外の自転車のブレーキ音や救急車のサイレン等々、さまざまな生活音も遠慮なくガンガン拾ってしまいますのでノイズの低減対策が不可欠です。使用するには別途、ファンタム電源付きのオーディオインターフェース等が必要です。
まれに、せっかくだからといって、いきなり3万も4万もするような高価なマイクを購入する人がいますが、一般家庭で使用することが前提ならば、そんなに高価なマイクは不要だと思います。なにより、この手の高額マイクの機能を使いこなすには、音質やノイズ対策を含めそれなりに専門的な知識が要りますし、さらに高価な機材や防音設備も必要になってきます。保管にも細心の注意を払わなくてはなりません。とても初心者が通常の家庭内で扱いきれるものではないんですね。
当然ですが、高価なマイクを使えばそれだけでいい声になったり、歌がうまくなったりするわけではありません。初心者のうちは、まかり間違っても10万円を超えるようなマイクには手を出さないようにしましょう。お金があり余っているならともかく、そうでないなら必ず後悔することになりますよ。
モニター イヤホン/ヘッドホン
モニター用イヤホン/ヘッドホンというのは、普段わたしたちが使用している音楽鑑賞用のイヤホン/ヘッドホンとは異なり、鳴っている音をできるだけそのまま伝えるように設計されています。
そのため重低音も高音も取り立てて特徴がなく、ありのままのフラットな音で聞こえますから、普段から重低音のズンズンに慣れてる人には非常に質素で退屈な音に感じるはずです。ですが、「自分の本来の声」や「楽器そのものの音」を確認するためには、むしろそのほうがいいわけです。
「いかにそのままの音を再現できるか」それが最も重要なんですね。
最近では、5万円をはるかに超えるハイエンドクラスのモニターイヤホン/ヘッドホンなんかも普通に店頭販売されたりしていますが、私は1.5万~2万円前後の定番商品で十分だと考えています。
<audio-technica ATH-M20x>
エントリーモデルのモニターヘッドホン。価格もお手頃なので、「いきなり高いヘッドホンは無理だけど、とりあえずモニターヘッドホンとはどういったものなのかを知りたい!」という人は試してみてもいいでしょう。音楽鑑賞用とは違い、低音のズンズン感や高音のシャリシャリ感みたいなものはなく、どの音域も満遍なくフラットに聞こえます。音のメリハリについては若干弱い感じがありますが、価格からすれば入門用のモニターヘッドホンとしては決して悪くないと思います。
…ですが、ゆくゆくは下で紹介する「MDR-CD900ST」か「MDR800ST」あたりは手にしておいて欲しいところです。やはり、音質がまったく違うんですね。
<SONY MDR-CD900ST>
どのレコーディングスタジオにもだいたい置いてある定番中の定番モニターヘッドホン。どのモニターヘッドホンにすればいいか迷ったら、とりあえずこれにしておけばほぼ間違いないでしょう。鳴っている音が加工されることなく、そのままの音として聞こえます。さらに、それぞれの音のメリハリがはっきり、くっきりしてるため一切ごまかしが効きません。音楽業界のプロも使用しているので品質も信頼できます。ただ、プロ仕様のため、ヘッドホンとしてはやや高価でありながらメーカー保証もないというのが欠点です。もっとも、昨今の音楽鑑賞用ヘッドホンの高級化からすればかなりお手頃価格とも言えます。予算に余裕があったらぜひとも手に入れておきたいアイテムです。
<SONY MDR800ST>
カナル型のモニターイヤホン。音質に関してはSONY MDR-CD900STと大きな違いはありませんが、カナル型ということもあって音がさらによりダイレクトに聞こえます。イヤホンにするかヘッドホンにするかは好みによりますが、普段からイヤホンを使い慣れているならイヤホン、ヘッドホンならヘッドホンという選び方でいいのではないでしょうか。
私は普段はこのモニターイヤホンをメインに使用しています。耳にかけるタイプなので演奏の途中で外れて落ちてしまう心配がなく、また、このイヤホンであれば断線してもケーブルだけを交換できますので、そんなところも高く評価しています。ただ、こちらもプロ仕様のためメーカー保証はありません。
ミキサー/オーディオインターフェース
一部のコンデンサマイクを除いてマイクを使用するにはアンプやミキサーが必要になります。また、PCを利用して録音や編集をするには音声をデジタル信号に変換するオーディオインターフェースを用意しなければなりません。
<YAMAHA AG03>
入門用オーディオインターフェース。(この機種はアナログミキサーとしての機能も搭載していますので、直接スピーカーに繋いでも使用できます)初心者向けで低価格ではありますが、機能はしっかりとしてます。もちろん、上記で紹介したマイク、イヤホン/ヘッドホンはすべて使用できます。イラスト付きの操作盤ということもあって、初心者にもとても分かりやすいと思いますね。また、エフェクト機能も搭載しており、本機のボタン操作でリバーブのオン/オフもできるのでたいへん便利です。私は今でもこれを使用していますが、機能面に不満はありません。よほど高価なマイクや楽器を使用しない限りはこれで十分です。あくまで入門機ですからXLRタイプコネクターは1つしかありませんので、2つほしい場合はYAMAHA AG06にしましょう。
<STEINBERG UR22mkⅡ>
こちらも初心者には定番のオーディオインターフェースです。PCやipadに接続して使用します。音質はYAMAHA AG03よりもこちらのほうが良いという意見も結構ありますが、私個人の感想ではそれほど大きな差はないと思います。XLRタイプコネクターは2つあります。さらに、MIDIの入出力端子が付いていますので、MIDIを利用したい場合はこちらにしたほうがいいです。また、この機種にはエフェクト機能は付いていませんので、エフェクトも使用したい場合はSTEINBERG UR242にしましょう。