試行錯誤の結果、なんとかミックスボイスをマスターできたとき、私は子供の頃に指笛を身につけた感覚とよく似ているなと感じました。誰しも一度くらいは練習したことがあると思います。でも、この指笛ができる人って、実は思ったほど私の周り(関東)にいないんですよね。関東にとどまらず全国的に見てもそれほど多くはないと思います、特定の地域を除いては。
なぜか?
…普段、指笛を使う必要がないからです。出来なくてもどうということはないんです。だから、練習してても飽きたらやめちゃう、別に困らないから。
その点、沖縄の人たちはどうかというと、沖縄では男性であればほとんど誰でも指笛ができるようになるといいます。沖縄にはエイサーという風習があって、蛇三線や太鼓の演奏に合わせて指笛で拍子をとって踊ります。このエイサーは沖縄の伝統的な一大イベントですから、沖縄に住む人であればほとんどがその地域ごとで参加します。
というか沖縄の人たちはエイサーに限らず、年中、蛇三線と指笛で踊ってるんです。事あるごとに踊りが始まっちゃうんです。つまり、沖縄でご近所づきあいを大事にしながら暮らすためには、指笛が必要なんです。出来ないと困るんです。場が盛り上がらないから。
特に、小学校や中学校では周りの仲間がみんな指笛ができるのに、自分だけが出来ないとヤバイんです。恥ずかしいんです。だから、沖縄では子供の頃からみんな必死になって指笛を練習して、できるようになるんだと私は勝手に思っています。
そういう意味では、沖縄に限らず、それと似たような風習のある地域では、当然指笛ができる人口の比率は高くなるでしょうね。必要に迫られれば、みんな必死に取り組みますから。
何が言いたいかというと、そもそも指笛というのは、「指」、「舌」、「人並みの肺活量」という3つの要素があれば、誰でも必ず出せるんです。この要素が揃っているにもかかわらず、指笛が出来ないというのは、単に途中で投げ出しているだけなんですね。必死になってやっていないんです。
指笛が出来るようになるまでには、指と指の間隔を広げたり、狭めたり、舌に当てる指の力を強めたり、弱めたり、息の強さを…というように自分なりにいろいろと試しながら調整する必要があるんですね。そして、バッチリ条件が揃った時に、あの甲高い「ピーッ!」という音になるわけです。それなりに手間のかかる作業なんです。
もちろん、要領のいい人なら1日で出来てしまうこともあるでしょうが、なかなかコツの掴めない人だと1週間たっても出来ないこともザラにあります。おおかた途中でやめてしまう人のパターンとしては、いくらやっても「ふぃー、ふぃー」という息が漏れるだけで、全然きれいな音が出る気配がない。指は唾液でベタベタ、頭も息を出しすぎでクラクラ、「もう、やーめた!どーせ出来なくても困んないし…」ってな感じじゃないでしょうか。大半は練習時間に1時間さえも費やさないうちに諦めてしまっているんじゃないかと思います。私も一度はこれで挫折しました。
それでも、しかたがないんです、それ程まで私達には指笛は必要がないんですから…。
ミックスボイスについても同じことが言えると思うんですね。ちゃんと「地声」と「裏声」が出ていて、「ボーカルフライ」を使えるようになれば、誰でも必ずミックスボイスを出せる、と私は考えています。そうは言うものの、前述したとおり、1,2か月なんていう短いスパンで簡単に身につくようなものでもないんですね。ボーカルフライの加減を調節したり、声帯を絞ったり、緩めたり…ひたすら音と感覚だけを頼りにミックスボイスの入口を探っていくという地道な作業が必要なんです。(この点については、指笛のように、できる人の指の形や舌に当てる様子などを目で見て参考にできないぶん、ミックスボイスの方がずっと厄介だと思います)
さらに言えば、ミックスボイスだって出せないからといって特段、困ることも恥ずかしいこともないんですね。となると、やはりどうしてもモチベーションが維持できなくなってしまうわけです。いつ出るとも分からないミックスボイスのために、時間を割いて真剣にトレーニングなどやっていられるかと。おそらく、そこが一番の精神的な難所じゃないでしょうか。
もっとも、ミックスボイスの場合は、運の要素も少なからず関わっていて、たまたま条件が整って「出ちゃった!」ということもありえますから、極端な話をすれば2,3日で出ることも、理屈上はないとは言い切れません。でも、私の知る限り1,2ヶ月程度のトレーニングで出るようになったという人は今のところ聞いたことがありません。(今後、このサイトを見て1ヶ月以内に出せたという人が出てきてくれることを期待しますが)
すなわち、「指笛」も「ミックスボイス」も要素さえ揃っていれば誰でも出せるようになるけれども、その反面、結果が出るまでには相応の手間と時間が必要なんですね。それに耐えて、最後までやり抜く「忍耐強さ」があるかどうかがマスターできるか否かの大きなポイントのひとつではないかと思っています。
ただ、指笛はともかく、ミックスボイスのほうは必ずしも「忍耐強さ」がなくても出せる可能性は残されていますが。詳しくは後で説明します。