13.まとめ

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さて、長々と能書きを申し述べて参りましたが、ここで要点をまとめます。

まず、地声がしっかり出せること。これは、ミックスボイスうんぬん以前に発声の基本中の基本ですから、あえてこの講座では言及しませんでしたが、念のためここで確認しておきます。腹式呼吸でしっかり、そしてはっきりとした地声が出せるようにしましょう。

次に、安定した裏声(ヘッドボイス)が出せるようにすること。「第6回 ミックスボイスを出すには?」の中でも言っているとおり、ミックスボイスの入口は換声点(地声と裏声の境)付近にあります。ちゃんとした裏声が出せないと、換声点がブレてしまうため、入口の場所も定まりせん。また、「第7回 どの器官を使ってるの?」の項でも既に紹介しているとおり、ミックスボイスを出すときの感覚は「裏声を出すときの緊張させた声帯」をベースにしているんですね。つまり、安定した裏声が出せないとミックスボイスを出すときの「声帯の形」をつくり出せないんです。かすれや息漏れのないハッキリした裏声を目指してください。

そして、ボーカルフライ(エッジボイス)。本論でも度々、その重要性について述べてきました。ボーカルフライを低音で出すこと、それ自体は特に何にも難しいことはありません。誰でもすぐに出来るようになると思います。問題は、このボーカルフライを換声点の付近まで維持できるかということなんです。おそらく、低音から高音に上げていくチューニングでブチ当たる壁は、「高音にしていくとボーカルフライが消えてしまうし、逆に、ボーカルフライを意識すると高音を出せなくなってしまう」ことだと思います。残念ながら、これについては近道はありません。日々のトレーニングの積み重ねで、半音ずつでも克服していくしかないでしょう。どうしても苦手な人は、まずは、裏声から徐々に低音に落としていくチューニングのほうを徹底的に攻略してみるというのも一つの手段だと思います。人によっては、そちらのほうが出しやすいという場合もありますからね。自分にあった方法をいろいろ試してみてください。

ミックスボイスの最大のポイントは「裏声」「ボーカルフライ」です。そして、「ボーカルフライを使って換声点を通過するとき、声帯の形がある条件を満たすとミックスボイスは出ます」ということは既に言いました。さらに、その条件が何であるかは明確に説明できないということも。
そうである以上は、あとはとにかく声帯に少しずつ変化を付けつつ、換声点の付近をボーカルフライを出しながら徘徊するしかないんですね。ミックスボイスの入口があると思しき場所を歩きまわるんです。時には徐行で、またあるときはハイスピードで、下から登ったり、上から降りたり…いろいろ試すんです。要するに、ボーカルフライを出しながら換声点を通過する回数を多くすれば、そのぶん何かの拍子でミックスボイスの入口に入り込む可能性も高まるというわけです。運の要素が関わっているというのは、つまりはこういうことです。まぁ、運もさることながら、手探りでミックスボイスの入口を攻略するには、このようにそれなりの根気が必要なんです。
要領のいい人はすぐに入口を攻略できるでしょうが、ダメな人は1年かけても無理かもしれません。私のイメージとしては、超エクストラハードの指笛といった感じです。理屈は簡単だけれども、実際に音の出るポイントを見つけるのはとても難しいんですね。

これまでミックスボイスのアプローチの仕方を説明するにあたって、「入口」だとか「ある条件」という表現を使ってきましたが、もし、これらの表現がイメージしにくい場合には、単純に次のように考えてください。チューニングというのは結局は「ミックスボイスの型」を探す作業なんだと。
「ミックスボイスの型」とは、つまりはミックスボイスを出すための「声帯の形」のことです。例えば、指笛を吹くときの「指の間隔」、「舌の当て具合」、「息の強さ」 これらの一連の所作を「型」とするなら、この「型」がちゃんと作られたときに、あの「ピーーー!」という音が鳴るわけですね。ミックスボイスも基本的な考え方はこれと一緒です。ミックスボイスを出すための「声帯の形」すなわち「ミックスボイスの型」をしっかり作ることが出来たとき、声帯が特有の振動を始めることでミックスボイスになるんです。
ただ、その声帯の形を確認する術がないので、ボーカルフライを使いつつ、声帯を前後左右に絞ったり、緩めたり、「低音から高音」またはその逆で発声したりしながら、手探りでその型を作り出そうとしているわけなんです。そして、その型を作ることができ、ミックスボイスが出せる状態になったことを「条件を満たした」とか「開通した」と言っているだけなんです。どちらで説明しても、やっていることは一緒ですけどね。

まぁ、いずれにしても、結局は忍耐力につきます。多分、このサイトを見てチャレンジしてくれる人は結構いると思います。その反面、やっぱり指笛と一緒で大半の人が途中でやめてしまうだろうとも思っています。でも、それでOKなんです。ミックスボイスの場合は、それでもかまわないんです。そこが指笛との決定的な違いです。

何が違うかというと、指笛を鳴らすときには指をくわえる必要がありますね。練習するときは、もちろん指を口に突っ込まなくてはならないんです。普段、私達が生活する上で指を口に入れるなんてことは、まずありませんよね。「指切っちゃた!」とか「マヨネーズ付いちゃった!」くらいですかね。つまり、指をくわえること自体が特別なことなんです。だから、一度、指笛の練習に挫折したら、もうそれっきり。指をくわえなければ、指笛が吹けるようになることは絶対にないんです。

でも、ミックスボイスは違います。声なんて誰でも年がら年中、出してるんです。カラオケが好きな人であれば、否が応でも声を張ったり、裏声を出したりするはずです。つまり、ミックスボイスの場合は、一度、真剣にトレーニングをして「ボーカルフライ」と「裏声」を使えるようにさえしておけば、あとは普段通りに生活しているだけで、ある日突然、忘れた頃に何かの拍子で「パーン!」と出る可能性が十分にあるわけです。
なにも長期間にわたって、延々とトレーニングを続ける必要はないんですね。ただ、問題はその時出たその声をミックスボイスだと気付けるかどうかにかかっています。前述したとおり、トレーニングとして意識していないと折角ミックスボイスが出ていても、それと気付かずスルーしてしまうおそれがあるのでそこだけは注意が必要です。

何が何でも短期間で!という人は、やはり毎日、それなりに時間を決めてしっかりトレーニングをしたほうがいいですね。毎回、入念にチューニングをしてから、地声の最高音よりも若干(1~2音ほど)高めの曲を選んで歌っていくといいと思います。チューニングの最中にミックスボイスが出せるようになる人もいるでしょうが、私のように曲のリズムに乗せて勢いで出ちゃうというパターンもありますから、チューニング自体にはそれほど神経質になることはないと思いますね。
換声点の付近でボーカルフライが出せているかをちゃんと確認できたら、あとはひたすら歌いまくる。およそ、こういった流れでいいんじゃないでしょうか。この時、注意して欲しいのは絶対に裏声は使わないことです。

いいですか?これだけは忘れないで下さい。今は、声を裏返らさないで高音を出す練習をやってんですからね!何としてでもボーカルフライを使って踏みとどまって下さい。地声だけで最高音までもって行くつもりで。意地でも裏声は出さない!!そういう気持ちで全力で歌ってください。そして、出せるようになるまで持続する!まさに、忍耐力の勝負です。

そんなにお急ぎでないなら、堅苦しく考えずに気長に取り組んだらいいんです。私も30歳を過ぎてからミックスボイスが出ましたから、そんなに焦らなくても大丈夫です。多分、40,50代からでも問題なく出せるようになるでしょう。体力のあるなしは、まったく関係ありません。トレーニングに飽きたら時間をおいて、またやりたくなったら再開すればいいと思います。「ボーカルフライ」と「裏声」。この2つさえしっかり身についていれば、ミックスボイスを出すための素材はもう揃っているわけですから、あとはいろんな歌をたくさん歌って「パーン!」が来るのをじっくり待てばいいんです。

カラオケに行くときは、積極的にいつものレパートリーよりも「キーが少し高めの曲」にチャレンジしてみましょう。

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