ここではミックスボイスの考え方を説明する上で、混乱を避けるためにあまり触れてこなかった「ファルセット」について私なりの解説をします。
結論から言うと、ファルセットはヘッドボイスを息漏れさせたものです。
意図的か無意識的かにかかわらず、裏声の中に息漏れが充分に感じられれば、それはもうファルセットです(私の場合は、意図的に、そして大袈裟に息漏れさせます)。
ですが、この「充分に」というのは主観の問題なので、人によってその評価はまちまちということになります。(実際のところ、ヘッドボイスとファルセットに厳密な境界を設けるのは難しいと思っていますが)ですから、ここで言うファルセットというのは大袈裟に息漏れさせた裏声のことだと考えてください。もちろん、これも説明の便宜上、私が勝手に決めていることです。
さて、この講座の序盤でも申し上げたとおり、私は「ミックスボイスってどんな声?」と聞かれたら、大西ライオンの「心配ないさ~!」だよと答えます。同じように「ファルセットってどんな声?」と聞かれれば「ザワワ」だよと答えます。森山良子さんの「さとうきび畑」ですね。または、森山直太朗さんの「さくら(独唱)」なんかも典型的なファルセットだと思います。私の場合、ファルセットという言葉を聞くと真っ先にこの「森山一門」が頭に浮かびますね。「さとうきび畑」も「さくら(独唱)」のどちらにしてもヘッドボイスで歌うと曲のニュアンスがまったく変わってしまいます。やはり、あの情緒的な繊細さを表現するにはファルセットを使うしかないのでしょうね。
発声の仕方は、ヘッドボイスもファルセットも基本的には同じです。声帯を前後に緊張させて、その声帯の隙間から息を絞り出せばヘッドボイスになります。ファルセットにするときは、私の場合、この声帯の隙間を意図的に緩めて適度に息を抜きながら、やや鼻にこもらせて発声します。
私がミックスボイスの説明の時にファルセットを除外した理由がこの発声の仕方にあります。と言うのも、この発声の仕方ではミックスボイスを出す際に最も重要なボーカルフライが使えないんです。ボーカルフライを出すには声帯はピタッと閉鎖していなければなりません。
でも、ファルセットはこの声帯を意図的に(または無意識に)緩めて息を漏らしながら発声するわけですから、当然、ボーカルフライも使えないんですね。したがって、息漏れをさせていたのでは、いつまでたってもミックスボイスを出すことはできませんから、息漏れのない透き通った裏声、すなわち「ヘッドボイス」を目指して欲しいということだったのです。