8.「でちゃった!」からが勝負

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ミックスボイスが出るときというのは、なんの前触れもなくパーンと出たりします。私はそうでした。今まで聞いたことがない音と振動が自分の中から突然出てきたんです。普段からボーカルフライと声帯を意識してトレーニングしていれば必ずその異変に気づくはずです。私の場合、そのときはミックスボイスが意図的に出せたというよりは、むしろ不意に出ちゃったという感じでした。

忘れもしません、とある10月の日曜日、昼下がりでした。その日はめずらしく朝からチューニングをしていて、その合間にB’zの「LOVE PHANTOM」(最高音 hi B/ B4)などの中高音域の曲を歌っていました。この時は、低音から高音に一気に声を張っていくトレーニングがしたかっただけで、hi Bが出ないのは承知のうえで歌っていました。案の定、hi Bはおろかhi Aすら出ていない状態でした。昼ごろ喉が少し枯れ始めたので軽く休憩を取り、昼食を済ませたあと、おもむろに歌を再開したんです。

そしたら出てしまったんですね、あのミックスボイスが。

今でも鮮明に覚えています、「LOVE PHANTOM」の「~がまんできな~い」の「な~い」のところでした。そのとき出た声の印象は、いかにもニューハーフの人が出すようなといったら変なんですが、とにかく耳から聞こえる音も声帯に伝わる振動もそれまで体験したことがない感覚でした。明らかに裏声ではありませんでしたし、高さもしっかりhi Bが出ていたと思います。それがミックスボイスだということは直感でわかりました。

さて、それからすぐに私が何をしたかといいますと…

アレを言いまくったんです。そう、アレ!「心配ないさ~!」です。当時、私はすでに、ミックスボイスとは「心配ないさ~!」のことだと認識していましたから、なんの迷いもなく「しんぱ~い、ないさぁ~!」をやりました。それまでは、どれだけマネしても出なかった「心配ないさ~!」がいとも簡単に出せたんです。コレは間違いなくミックスボイスだと確信しました。
その日は、このあと、日が暮れるまで、とにかく「心配ないさ~!」をやりまくりましたね。強めに言ったり、弱くして言ったりして、500回まではいかないにしても、3~400回以上はやってたと思いますよ。

何故そんなにやったのかって?

それはミックスボイスの感覚を声帯に刻みこむためです。先程から言っているように、ミックスボイスの出し方というのはうまく言葉で表現できないんです。だから、その感覚をなんとか自分の体で覚えるしかないんですね。
もし、その感覚を忘れてミックスボイスを出せなくなったら、次にまたいつ出るか分かりません。「出ちゃった!」は、まさに千載一遇のチャンスなんです。
そんなこともあって、かなり必死でしたね、とにかく、このチャンスを逃してなるものかと夢中になって「心配ないさ~!」を言いまくりました。

このとき、たぶん周囲の人たちはとうとう私の気が触れたんじゃないかと思ったはずです。突然、狂ったように「心配ないさ~!」と叫び続けたわけですから。「いやいや、心配ないどころか、お前、どう考えてもヤバイだろ!」と突っ込まれていたかどうかは分かりませんが、幸いにも苦情は来ませんでした(ヤバすぎて来れなかったのかもしれません)。その節は、心配をお掛けしてごめんなさい。

ともかく、なんとかその日のうちにミックスボイスの感覚はしっかりと喉に叩き込むことができたと思います。翌朝、起き抜けにやっても出ましたから。それから一週間ほどは朝晩10回程度、ちゃんと身についているかどうか確認のつもりで発声していました。今でも時折、歌う前にウォーミングアップで「心配ないさ~!」をいう時はあります。

このように、ミックスボイスはいつなんどき出るか分かりませんから、「出ちゃった!」ときは絶好のチャンスだと思って、恥や外聞をかなぐり捨てて繰り返し発声しましょう。もちろん「心配ないさ~!」でなくても、高音域のフレーズであれば何でも構いません。要はミックスボイスの感覚を身につけることが目的なのですから。

ただし、自宅でトレーニングするときは、家族やご近所から苦情が来たらすぐにやめましょう。トラブルを起こしてまで身につけなければならないスキルでもないと思いますよ。できれば、いつミックスボイスが出てもいいようにカラオケルーム等の防音環境の整った場所を利用しましょう。…と、一応言っておきますね。

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